当研究会について

かごしま深海魚研究会 ─ 理念

 鹿児島の海は深海魚の宝庫です。鹿児島湾(錦江湾)内外での小型底曳網や島しょ域での釣りや延縄など、グロテスクではなく美味しい深海性魚介類を狙った漁業があります。

 しかし、まだその認知度は低く、数多くの美味しい魚介類が私たちの目には触れない、海の上で捨てられてもいます。さらに、漁業者の高齢化と後継者不足で沿岸漁業は危機に瀕しています。

 私たち「かごしま深海魚研究会」は「うんまか深海魚」をブランド化し、地魚の認知度を上げるとともに、洋上でおきている「もったいない」を解決することで、漁業者の所得向上、モチベーションアップを目指します。次世代の漁師を絶やさないためです。水産業、観光産業、外食産業を元気にし、次世代に海と海の幸を残す取り組みを行っています。

 合い言葉は「鹿児島を西の深海魚王国に!」です。

鹿児島を西の深海魚王国にしよう!-かごしま深海魚研究会の取り組み-

 私、鹿児島大学水産学部教授の大富 潤(専門は水産資源生物学)は今までに約1300種の魚介類を食べました。魚体写真、料理写真とともに手に入れやすさと食味に関する評価資料を有しております。

 しかし、世界レベルでは魚介類の消費量が伸びている一方で、わが国の魚介類の消費量は減少の一途をたどり、都道府県別に見ると鹿児島県は最下位に近い状況です。また、漁業者の数もどんどん減っています。鹿児島県は南北600キロの海を有し、黒潮が流れ、浅海から深海、そして日本に2カ所しかない暖海の島しょ域漁場があります。とくに、深海域の水産資源の多様性、豊富さには目を見張るものがあります。洋上では様々な魚介類が釣られ、網に入ります。しかし、多くの魚種は市場に水揚げされることなく海上投棄されます。消費されないからです。私は「キロ0円の魚をキロ数百円にし、漁業者のモチベーションを高めたい」と思っています。そうなれば後継者が生まれ、彼らの未来が明るくなるとともに、海が元気になるのです。

 そのために必要なのは、魚種の認知度向上と消費量アップです。しかし、「人気のある魚は海外からの輸入物」ではまったく地元漁業者のためにはなりません。サーモンやノルウェーのサバが好まれる一方で、鹿児島の海で獲れる有用種の多くは県外に空輸され、鹿児島県民の目にふれることはあまりありません。

 私の研究室では資源生物に関する研究活動と同時に、鹿児島の天然地魚の普及のためにいろんな取り組みをしておりますが、このたび2020年8月に、鹿児島市の水産仲卸売会社である株式会社田中水産、深海底曳網(通称、たかえび漁)の基地である南さつま市とタッグを組み、産学官による「かごしま深海魚研究会」を結成しました(現在では鹿児島県すし商生活衛生同業組合などにも加わっていただいています)。まずは県内の料理店の方々を対象に、会の理念や展開方法の説明会と未利用深海魚の試食会を2020年11月15日に鹿児島大学郡元キャンパスで行いました。同年11月20日一斉スタートで、会のメンバーとなっていただいた店舗には定常メニューに鹿児島の「うんまか深海魚」料理を加えていただく取り組みを始めました。

 ハマダイ(ちびき)やアオダイ(ほた)、ヒゲナガエビ(たかえび)、アオメエソ(めひかり)、ヒメアマエビなど、すでに流通し、食材として使われている魚種が鹿児島の「うんまか深海魚」である事実を、提供する側もされる側も認識されていないことが多いのが現状です。会のメンバーの店舗は、現時点では50店舗以上あり、これらの魚種のメニューには「うんまか深海魚」である旨の添え書きを、そして海上投棄されていながら味の良い希少魚たちについては新たなメニュー開発を行っています。メンバーの店舗には「鹿児島のうんまか深海魚ございます」のポスターや、のぼり旗が掲げられています。最近はスーパーでの鮮魚・商品販売なども始まっています。

ポスター
のぼり旗

 この取り組みは、一過性のイベントではありません。次世代につなぐための持続的な取り組みです。水産業は鹿児島の基幹産業の一つですが、農業に比べると人々の関心の高さは雲泥の差です。さらに、ハイリスクハイリターンの養殖業に目が行きがちで、天然の水産資源を対象とする漁船漁業の現状を知る人は多くありません。このまま地球温暖化が進めば、あるいは研究が進み低水温耐性のあるカンパチが誕生すれば、鹿児島の養殖カンパチ日本一の座は他県に譲ることになるかもしれません。

 今、漁業者は高齢化し、数も激減しています。人々が魚を食べなくなり、誰も知らないうちに、関心も向けられないまま漁業者がいなくなることは、海での生業の終焉を意味します。昔の川は生産の場であり遊ぶ場所でした。しかし、漁業が廃れ、子どもには「川は危ないから近づくな」と言う時代になり、一時的に“ゴミ捨て場”と化した川もあります。このままでは、川と同じように海が死にます。私のモットーは「地魚を食べることで地元の海を守りましょう」です。地魚の消費が増えれば漁業者のモチベーションが上がり、後継者が生まれます。

 たとえばヒメアマエビ(大富が命名)。以前は二束三文のエビで、多くは網に入っても海上投棄されていました。しかし、我々の生物学的な研究と食材としての普及活動により、今や1500円/キロを下らない魅力的な資源になりました。このようなサクセスストーリーを描いたヒメアマエビも深海性のエビです。日本の太平洋側では,静岡県の伊豆半島の南方と鹿児島県の南方の2箇所のみに、島しょ域漁場が形成されます。深海から突き出た海山や曽根(瀬)の周辺は好漁場となります。静岡県の沼津市は首都圏から近いことが大きなアドバンテージでメディア等の露出も多く、「深海魚の町」としてよく知られています。一方、鹿児島では獲る人も売る人も食べる人もその認識はほとんど無いのが現状です。鹿児島は浅海魚も豊富ですが、深海漁場を有することが大きな魅力です。そこで、まずは深海魚を目玉にしようと考えました。

 深海魚が売れれば浅海魚も売れるようになります。コロナ禍で消費が落ち込んだ時期には県内外のあちこちで「鹿児島」「うんまか深海魚」の文字が目に付くような仕掛けをし、視覚に訴えるかたちで認知度を上げてきました。そして今では「うんまか深海魚」目当てにお店に足を運ぶ地元の方や観光客の数が増えてきました。今後はさらに多くの料理店さん、販売店さん、加工業者さんに地元の深海魚を学んでいただき、新たなる食材のメニュー提供やPR等により、一過性で終わることのない食文化を創生したいと思っています。沼津が東の深海魚王国なら、鹿児島を西の深海魚王国にしよう。水産業、外食産業、観光産業の活性化を目指し、エイエイオーでがんばっていきたいと思っております。

 食べ物を残すのはもったいないことですが、食べ物にされず、すでに海上で投棄されているおいしい魚介類がたくさんいます。一般の人の目に触れない、海の上で起きている「もったいない現象」を解決すれば、私たちの食生活も豊かになり、漁業者のモチベーションもアップします。

 この取り組みを軌道に乗せるためには、まず「深海魚はグロテスク、食べ物ではない」と思っていらっしゃる消費者の皆さんの意識を変えることが大事です。「うんまか深海魚」は美しくおいしい魚介類なのです。すでに人気のある、たかえび、めひかり、きんめだい、のどぐろ…、すべて「うんまか深海魚」なのです。

 かごしま深海魚研究会は、令和4年度九州農政局「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」に選出され、取り組み姿勢が高く評価されました。また令和5年3月には、文化庁食文化「知の活用」振興事例として表彰されました。ぜひ、かごしま深海魚研究会の理念にご賛同いただき、会のメンバーになってくださいますようお願い申し上げます。また、パートナーシップカンパニーになっていただける異業種企業様等も募集いたしております。協賛金の額は任意です。我々の力で、漁業後継者を絶やさず、鹿児島の豊かな海と海の幸を次世代に残しましょう。

2024年4月1日
かごしま深海魚研究会 代表
鹿児島大学水産学部
教授 大富 潤